Column

2021年3月19日
熱闘!代々木第二体育館
中三高 VS 春一番高(第二話)

連載第二話の前に。

今寝ぼけています。

先ほどまで、自分には珍しく
19時から21時までガッツリと
眠りに落ちていました。

夕寝ですね。

その時見た夢が
あまりにリアルで生々しくて…

仕事のメールを受けたり送ったり。
その間にコンビニに行ったり。

目覚めてパソコンを見ると
受信したはずのメールも
送信したはずのメールもない。
削除してしまったか?

コンビニで買ってきたはずの
お菓子とアイスがない…

頭の中が完全に
こんどぉーです。



ということで、
中三高 VS 春一番高、第二話です。

準決勝前夜——。
人気音楽番組を見ながら宿舎の食堂で、つかの間の休息をとっていた中三高校部員。

「みんなテレビの前に集まってくれ」

阿久がしゃがれ声とともに、大きな段ボール箱を抱えて食堂に入ってきた。
和やかな空気は一変した。
阿久が段ボール箱から取り出した得体の知れない黒い箱型の機械に部員たちの視線が集まる。

「先生、その機械、なんですか?」

質問をしたのは中三トリオの中ではもっとも小柄な森だった。

「先生じゃないだろ。授業中以外は監督と呼べ」

「すみません」

森の頬がわずかに紅潮した。
阿久は森のクラスの担任でもある。森が阿久に対してほのかな恋心を抱いていることは、ほとんどの部員がうすうす感づいている。
先日も、傘に隠れて桟橋で、阿久を一人見つめて泣いている姿を後輩部員が目撃していた。森が小柄ながらもレギュラーで活躍している原動力は、阿久に褒められたいという一途な思いに他ならない。

「これはビデオデッキといって、テレビ番組が録画・再生できる機械だ。まだ一部のマニアしか持っていないが、数年後には一般家庭にも普及するだろう。みんながいつも聞いているカセットテープの映像版だと思ってくれればいい。我々の遠征費用だけでかなりの予算を使っているにもかかわらず、学校側が対戦校分析のために購入してくれた。準々決勝「桃色学園」×「木綿高校」の試合がこのテープに収められている。今からじっくりその試合を観てもらう。特に、根本と増田の動きに注目だ」

阿久の話を聞いた部員たちは、ビデオデッキに興味津々といった様子だ。阿久は説明書を読みながらテレビに接続し、テープをビデオデッキに挿入。静かな緊張感が張りつめる中、再生ボタンを押すと、真っ黒だった画面に「桃色学園」×「木綿高校」の映像が映し出された。
阿久がタイムアウトやCM部分は起用に早送りボタンを押しながら、ポイントになるところはリプレイし、解説を交えていた。試合そのものは一方的な展開だった。
前半を終えて52-22。中三高校部員は根本と増田の圧倒的な攻撃力を目の当たりにし、自信も揺らぎかけていた。面白いようにリングに吸い込まれていく二人のシュートを押し黙ったまま見つめていた。それは阿久も同じだった。
『まともに戦ったら勝算はない。何とかこのモンスター二人を止める術は無いか』
答えが見出せないまま録画では後半が始まっていた(当時は前後半20分制)。

「あっ」と山口が声を上げた。

「ちょっとまってください。いまのところプレイバックしてください。」

阿久が巻き戻しボタンを押した。

「そこ、止めてください」

そこには木綿高校キャプテン太田の表情がクローズアップされていた。

「太田さんがあっさりとドリブルで抜かた後の表情です。」

マークについていた太田は高校全日本候補で特にディフェンスには定評がある選手だ。その太田があっさりと抜かれ苦笑いを浮かべている。 山口の言葉を受け桜田が神妙な声で続いた。テープは停止されている。

「昨年夏の高校総体、太田さんのマークにあった私は、ほとんど自分のプレーができなかった。私が対戦してきた中でもディフェンス力は一番だったかもしれない。とにかくフットワークが良い上に間合いも絶妙で、どんなフェイクも通用しなかった。今のテープの映像を観る限り、太田さんはしっかりマークしたつもりだったのに、あっさり抜かれた。まるで透明人間に抜かれたかのように。」

「前半からなんとか食らいつこうとしていたけど、さすがにお手上げって感じ。太田さんの諦めに近い表情が根本の異次元ぶりを物語っている」

と山口が付け加えた。
その後、試合終了まで全員が押し黙ったまま、録画映像を見つめていた。
阿久が努めて冷静に言葉を切り出した。

「根本の技術とスピードは、男子レベルだ。」

阿久の声に部員たちの反応はなかった。ただでさえ厳しい戦いを予想していたところに、高校全日本候補の太田をあしらった根本の破壊的な攻撃力を観てしまったのだから無理もない。
中三高校、絶体絶命…。
しばしの重苦しい沈黙を破って桜田が監督に聞いた。

「監督、明日のディフェンスはマンツーマンですか、ゾーンですか。マンツーマンの場合、根本さんと増田さんのマークにつくのは誰ですか」

「明日はマンツーマンでいく。根本のマークは山口、増田は桜田だ。ただし、根本を40分間厳しくマークし続けるのは相当に体力を消耗するだろう。一方、増田は比較的動きが少ないので、体力的には桜田の方が楽だ。山口はディフェンスでの負荷が大きく、オフェンス面で期待するのは難しい。オフェンスは桜田次第ということだ」

桜田は阿久が見出した逸材であり、そのセンスは超高校級だ。得点力が落ちたと言われているが、それは山口の成長により、自分が無理をしなくても山口を活かすことでチームの得点力が上がることを理解したに過ぎない。しかし、明日の山口はディフェンスに専念してもらわざるを得ないだろう。


つづく。